新生児蘇生講習から考える「本当に働きやすい職場」とは

みなさん、こんにちは。
私たちは、仙台を拠点に企業の健康経営をサポートしています。
一方で私自身は産婦人科医として、日々新しい命の誕生にも立ち会っています。
先日、新生児蘇生法(NCPR)の更新に必要となる講習を受けるため、千葉大学医学部まで行って参りました。
道中で体験した「ある驚き」と、講習で再確認した「命の重さ」。
今回はその経験から見えてきた、現代の働き方、
特に「女性が妊娠・出産を考えた際に働きやすい職場づくり」について、
産業医そして産婦人科医の視点からお話ししたいと思います。
22時の総武線
🚃 仙台から千葉へ。22時の満員電車
講習は朝からだったため、前日の夜に仙台から移動しました。
東京駅に到着し、会場最寄りの千葉駅へ向かうため総武線に乗り換えた時のことです。
時刻はすでに22時を回っていました。
「さすがにこの時間なら座れるだろう」と思っていたのですが、
ホームに到着した電車は、仙台では考えられないほどの満員状態。
通勤ラッシュと見紛うほどの混雑に、本当に「驚き」ました。
金曜の夜でしたので、会食帰りの方も普段より多かったかもしれませんが、
その中でも、多くの人がこの時間まで仕事をして、長距離の通勤をしているという現実。
この光景が、翌日の講習内容と相まって、私にとって非常に印象的でした。
新生児蘇生の現場
🩺 命の最前線で再確認したこと
翌日のNCPR(新生児蘇生法)講習は、更新のためであるため、
初めて受ける講習ではありませんでしたが、緊張しながら迎えました。
生まれてくる全ての赤ちゃんが、元気な産声をあげられるわけではありません。
万が一、呼吸や心拍が弱い状態で産まれてきた赤ちゃんに対して、
いかに迅速かつ的確に蘇生処置を行う事ができるか。
これは、時間との勝負であると同時に、知識と技術の正確さが求められる医療行為です。
講習では、最新のガイドラインに基づいた手技やアルゴリズム等を再確認しました。
いつもお産に立ち会っている私でも、「改めて重要だと感じる事が多い」と感じるほど、
充実した講習でした。
日々何気なく行なっているルーティンケアについても、その手順の重要性や行う意味について
再確認いたしました。
🏥 地方の産科医療が直面する「現実」
私が勤務する岩手県の産科クリニックをはじめ、大都市から離れた地方の現場では、
このNCPRのスキルがさらに重要性を増します。
なぜなら、都市部のように近隣に新生児科の専門医やNICU(新生児集中治療室)が
あるとは限らないからです。万が一の事態が発生した際、
新生児科の医師のフォローをすぐに受けることが難しいケースも少なくありません。
だからこそ、私たち産科医や助産師、看護師がその場でできる最大限の蘇生処置を行い、
赤ちゃんの命を守り抜く体制を整えておくことが不可欠なのです。
「働きやすさ」を阻むもの
満員電車が問いかける「健康への負担」
ここで、前夜の満員電車の話に戻ります。
あの22時の光景は、多くの働く人々、特に若い世代が日常的に直面している
「ストレス」の象徴ではないでしょうか。
もし、妊娠中の方が、あるいは妊娠を望んで不妊治療中の方が、
あの満員電車で毎日通勤しなければならないとしたら…?
- 身体的負担: 立ちっぱなしの辛さ、お腹への圧迫、感染症のリスク。
- 精神的負担: 「もし倒れたら」「もしぶつかれたら」という不安、遅くまで働かなければならない焦り。
妊娠初期のつわりは、外見では分かりにくいものですが、乗り物酔いがずっと続くような辛さがあります。
その状態で満員電車に乗ることは、我々男性が想像できない位のストレスでしょう。
制度だけでは足りない。「妊娠・出産しやすい職場」とは?
企業の人事・労務担当者の皆さんは、産休・育休制度の整備に日々尽力されていることと思います。
それは非常に重要で、立派な基盤です。
しかし、制度という「ハコ」があるだけでは、社員は安心して妊娠・出産に踏み出せないかもしれません。
本当に必要なのは、「妊娠しても大丈夫だ」と心から思える「環境」と「風土」です。
新生児の命を守る現場で感じた「地方の医療の現実」と、都市部で感じた「過酷な労働環境の現実」。
どちらも、個人の努力だけで解決するには限界があります。特に、妊娠・出産というライフイベントは、社会全体で、そして何より「企業」という身近なコミュニティで支えていく必要があるのです。
企業が今すぐできる「働きやすい職場」への一歩
では、企業は具体的に何ができるのでしょうか?
- 通勤ストレスの徹底的な軽減
- 妊娠中の社員だけでなく、全社員を対象に「時差出勤」や「リモートワーク」を柔軟に運用できないか検討する。
- 特に、体調が不安定になりがちな妊娠初期や、不妊治療中であることを(申告があれば)考慮した配慮が重要です。
- 「見えない辛さ」への理解を深める
- 産業医や保健師を活用し、妊娠初期のつわりや、不妊治療の精神的・身体的負担について、管理職向けの研修を行う。
- 「安定期に入るまで言わない」という風潮ではなく、「困ったらいつでも相談できる」という安心感を醸成することが大切です。
- 産業医との連携強化
- 妊娠中の体調変化は人それぞれです。本人が「これくらい大丈夫」と思って無理をしてしまうケースもあります。
- 産業医が定期的に面談し、医学的見地から「どの作業なら可能か」「どのような配慮が必要か」を企業側と
本人に具体的に助言する体制を整えましょう。
命の誕生から考える、これからの職場づくり
新生児蘇生という「命の始まり」を守る現場も、社員の「健康な生活」を守る職場も、
根底にある思いは同じはずです。それは、「誰もが健やかであってほしい」という願いです。
地方の医療課題も、都市部の労働課題も、私たちに「働き方」や「生き方」そのものを
見直すよう問いかけています。
あなたの職場は、社員が妊娠・出産といった大切なライフイベントを、安心して迎えられる環境でしょうか?
私たちCAMDOCは、産婦人科医としての知見も活かしながら、
医学的視点に基づいた「本当に働きやすい職場づくり」を全力でサポートしています。
社員の健康や働き方について、どんな小さな不安や疑問でも、ぜひ私たち産業医にお気軽にご相談ください。

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