【産業医が解説】健康診断の結果、見て見ぬフリしてませんか⁉︎〜未来の自分を守るための正しい「振り返り術」〜

「今年も健康診断、終わった!異常なし、よかったよかった。」
机の引き出しに結果票をしまい込み、そう安心しているあなた。
その行動、実はとても”もったいない”かもしれません。
健康診断は、年に一度の「からだの通信簿」です。
しかし、ただ受けて結果を眺めるだけでは、その価値は半減してしまいます。
衝撃的なデータがあります。
最新の調査では、健診を受けた労働者のうち6割以上に何らかの異常所見が見つかっているのです。
もはや「自分は大丈夫」と楽観視できる状況ではありません。
この記事では、産業医の視点から、健康診断の結果を単なる通知表で終わらせず、
未来の健康を守るための「戦略書」に変えるための具体的なアクションを分かりやすく解説します。
なぜ健康診断は「受けっぱなし」ではダメなのか?
「毎年受けているから大丈夫」という考えは、一度リセットしましょう。
健康診断は「受けること」がゴールではないからです。
法律で定められた、会社とあなたの「義務」
まず知っておきたいのは、健康診断は労働安全衛生法という法律で定められた、事業者と労働者双方の義務であるということです。会社は従業員が安全で健康に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)の一環として健診を実施し、従業員はそれを受ける義務があります。これは、自分自身の健康を守るための大切な権利でもあるのです。
最大のメリットは「沈黙のサイン」に気づけること
生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の多くは、自覚症状がないまま静かに進行します。
まさに「サイレントキラー」。健康診断の最大のメリットは、こうした自覚症状のない初期段階で、からだの異常を発見できることにあります。
この早期発見が「二次予防」と呼ばれ、病気が重症化する前に対処するための重要なステップです。
さらに、結果を活かして生活習慣を改善すれば、病気そのものを予防する「一次予防」にも繋がります。
判定Aでも油断禁物!結果票の正しい「読み解き方」
結果票を見て、判定のアルファベットだけに一喜一憂していませんか?
数字の小さな変化にこそ、重要なメッセージが隠されています。
判定区分の本当の意味
まずは、判定区分の意味を正しく理解しましょう。
- A(異常なし):素晴らしいです!今の健康的な生活を続けましょう。
- B(軽度異常):今すぐ治療は必要ありませんが、生活習慣を見直すサインです。油断は禁物です。
- C(要再検査・要経過観察):病気へと進行する可能性があります。放置せず、次回の検査で変化を確認することが重要です。
- D(要精密検査・要治療):必ず医療機関を受を受診してください。これは、未来の自分からの重要なメッセージです。
「基準値内だからOK」の落とし穴
最も注意したいのが、「基準値ギリギリ」の状態です。昨年より少し数値が上がっている、あるいはここ数年ずっと基準値の上限に近い、といったことはありませんか?
重要なのは、1回ごとの結果ではなく「経年変化」を見ることです。からだは、数値の小さな変化を通して、あなたにサインを送っているのです。
特に有所見率が高いのは以下の3つの項目です。ご自身の結果をもう一度確認してみましょう。
- 血中脂質検査(脂質異常症)
- 血圧測定(高血圧)
- 肝機能検査(脂肪肝など)
これらは複数が重なることでメタボリックシンドロームとなり、動脈硬化を急速に進行させ、心疾患のリスクを増大させる危険な状態です。
放置は危険!「要再検査」「要精密検査」と言われたら
「D判定」や「要精密検査」の文字を見ると、不安になったり、つい後回しにしたくなったりするかもしれません。
しかし、その一歩を踏み出すかどうかが、10年後のあなたの健康を大きく左右します。
早期対応は、未来の自分への最高の「お守り」
なぜ、すぐに行動すべきなのか。それには明確な理由があります。
- 安心できる: 精密検査の結果、「一時的に数値が悪かっただけで問題なし」と分かり、心から安心できるケースも少なくありません。
- 対策が立てやすい: 万が一、病気のサインが見つかっても、早期であればあるほど、治療の選択肢は多く、対策も立てやすくなります。
- 身体的・経済的負担が軽い: 何よりも、早期治療は心身への負担、そして経済的な負担を大きく軽減します。
例えば、糖尿病の治療を放置して重症化した場合、毎月の医療費は早期に治療を開始した場合と比べて月額で約7,650円も高くなるという試算もあります(3割負担の場合)。これはあくまで一例であり、病気によってはさらに大きな差が生まれる可能性もあります。
「たぶん大丈夫だろう」という根拠のない自信が、数年後の生活の質(QOL)を大きく低下させてしまうリスクをはらんでいるのです。
健診結果を「未来への投資」に変える3つのアクション
では、健康診断の結果を最大限に活かすためには、具体的に何をすればよいのでしょうか。今日から始められる3つのアクションをご紹介します。
1. 自分の「現在地」を正しく知る
まずは結果票を隅々まで見て、自分の数値をしっかり把握しましょう。
特に、BMI、腹囲、血圧、LDL(悪玉)コレステロール、HbA1c(過去1〜2ヶ月の平均血糖値)などの主要な数値は、自分の健康状態を示す重要な指標です。
2. 生活習慣という「過去」を振り返る
健診結果は、この1年間のあなたの生活習慣の積み重ねです。数値の変化をきっかけに、日々の暮らしを振り返ってみましょう。
- 食事: 塩分や脂肪分の多い食事が多くないか?早食いや間食の習慣は?
- 運動: 1日に歩く時間は?座りっぱなしの時間が長くないか?
- 睡眠・休養: 睡眠時間は十分か?心身をしっかり休められているか?
- 喫煙・飲酒: 習慣化していないか?量は適切か?
3. 小さな「目標設定」で未来を変える
いきなり大きな目標を立てる必要はありません。「エレベーターを階段にする」「野菜をもう一皿増やす」など、無理なく続けられる小さな目標を立て、実践することが大切です。
もし、健診結果で「特定保健指導」の対象になったら、それは絶好のチャンスです! 保健師や管理栄養士といった専門家が、無料であなたの健康づくりをサポートしてくれます。一人では難しい健康改善も、プロと一緒なら心強く、続けやすくなります。ぜひ積極的に活用してください。
まとめ:未来の自分のために、今できること
健康診断は、過去1年間の生活習慣の結果を映し出す「鏡」であり、これからの健康な人生を歩むための「羅針盤」でもあります。
結果を「自分ごと」として捉え、からだの小さな変化に気づき、日々の生活習慣を少しだけ見直す。その小さな一歩が、10年後、20年後のあなたの笑顔と健康につながっています。
さあ、まずは机の中にしまい込んだ健康診断の結果票を、もう一度開いてみませんか?
株式会社CAMDOCでは、産業医の視点から企業の健康経営や、働く皆さんの心とからだの健康サポートに関するご相談を承っております。「何から始めたらいいかわからない」という人事・労務担当者の方も、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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